週末シンデレラ


集合時間になると、港にカラフルにペインティングされたジェット船が着いた。

「船が着ましたよー。みなさん、乗ってくださーい」

今回の旅行の幹事である営業部の人が声をあげる。すると、どこからかワラワラと社員が集まりだし、出発することとなった。

島までは二時間弱の船旅。

「長い」と悲鳴をあげていた人もいたけど、この島へ行きたいと言ったのが営業部長だとわかると、誰もが口を閉ざした。

一般のお客さんもいるので、オリエンテーリングを行うわけにもいかない。

寝る人もいれば、ゲームをする人、お菓子を食べる人……各々好きなように船上での時間を過ごしている。

「武田さん、気合い入ってるよねぇ」

海が見える席で一緒に座っていた美穂が、感心するように呟く。その視線のさきにある、斜め前の席には武田さんの姿があった。

網目の大きなニットに、ショートパンツを合わせている。露出度の高い格好は、営業部の男性を落とすための、気合いの現れだろう。

営業部の部長代理もこの旅行に参加しているから、なおさら気合いが入っていると思う。

「この旅行で部長代理が落とせなかったら、ほかの人を狙うんだって。すごいよねぇ」

美穂は呆れたように言い、お菓子の箱を開ける。

「ホント……そのバイタリティ、少しでも分けてほしいよ」

わたしは係長から、メールの返信をくれないほど嫌われても、いまだにひきずったまま……。

船が島に着くまで、美穂から勧められたポッキーを頬張りながら、ビジューが輝くミュールを、ぼうっと見つめていた。


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