週末シンデレラ


「あれ? 加藤さん……緊張してます?」
「し、してないよっ」

からかうように聞いてくる上川くんに、頭をぶるぶると振って返事をする。

彼はそんなわたしを見てひとしきり笑い、少し間を置いて口を開いた。

「そうそう、俺……加藤さんに聞きたいことがあったんです」
「なに?」

仕事のことだろうか。聞き返すと、上川くんは真剣な瞳を向けてきた。

「先週の土曜日、どちらにいました?」
「え……?」

緊張が一気に引いていく。先週の土曜日は、係長と会っていた日だ。

な……なんで上川くんが、土曜日のことを聞いてくるの?

動揺で手のひらに汗がにじむ。

「駅で、加藤さんらしき人を見ました」
「ひ……人違いじゃないの?」
「……かもしれません。髪型が、いつもと違ったので」

駅ということは、係長の家から帰るときだ。

係長と一緒にいるところを見られなくてよかったと安堵すると同時に、メイクが崩れているとはいえ、ウイッグをつけていた状態で見抜いた上川くんを鋭いと思う。


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