週末シンデレラ
食欲もあまりなく、料理に手をつけずに、ひとりで悩んでいると。
「おっ、きみは……総務部の子かな?」
「は、はいっ!」
「おお、いい返事だな。飲んで、飲んで」
恰幅のいい営業部長が、ビール瓶を片手にやってきた。わたしのグラスに注いでくれながら、空いていた隣に腰をおろす。
どうやら、いろんな席を回っているようだ。真っ赤になった顔から、随分お酒を飲んでいることがわかる。
「総務の……なにさん?」
「加藤です。いつもお世話になって……」
「あー……こんな席で堅苦しい挨拶はいいよ。それより加藤さん……彼氏はいるの?」
「へっ?」
脈絡のない質問に、思わず目を見開いたまま固まってしまう。
「彼氏、いるの?」
「い、いません……」
もう少しで、彼氏になってくれそうな人はいたけど……。
肩を落とし、奥歯を噛みしめる。すると、営業部長は嬉しそうに顔をほころばせた。
「そうか! なら、いいな」
「え……ど、どういうこと……きゃっ」
どういうことかと聞こうとしたけれど、営業部長に腕を掴まれ、勢いよく引っ張りあげられる。
「ちょっと、こっちにおいで」
「え? ぶ、部長……っ」
立ち上がると強く引きずられ、落ちそうになる黒縁眼鏡を押さえながら、部長について行く……と。
「都筑くん! この子、いいぞっ」
……えっ? 都筑係長!?
「あっ……!」
逃げる間もなく、係長の隣に座らされてしまった。