週末シンデレラ
「あ、あの……部長、わたし……」
武田さんが怖いし、なにより係長と気まずい。わたしはこの席から離れようとした。
だけど、部長に「まぁまぁ」と言って、ガッチリと肩を押さえ込まれてしまい、動くことができない。
「ほら、料理を食べて。都筑くん、彼女にビールを注いで」
部長はわたしに使っていないグラスやお皿を渡し、係長にはビール瓶を渡す。
係長は大きく息をつくと、諦めた様子でグラスにビールを注いでくれた。
「す、すみませんっ」
「……構わない。部長は押しが強いから、抗うだけ無駄だ」
係長はそう言うと、飲んでいた日本酒をあおった。表情ではわからないけど、雰囲気から機嫌が悪そうに見える。
やっぱり、早くこの席から離れなくちゃ。係長と向き合って話したいけど、ここではどうせ話すことができない……。
しかし、そんなわたしの考えなんか知らない部長は、手をつけていない料理を見つけ、持ってきてくれる。
「加藤さん、サザエのつぼ焼きは食べたか? 美味しいぞ」
「あ、ありがとうございます……んっ、潮の風味があって美味しいです」
あまり食欲がないと思っていたけど、気づかないうちにお腹は空いていたようだ。
早く食べて席を立とうとしたのに、思いのほか、新鮮なサザエが美味しくて感動の声をあげてしまう。
すると、それを見た部長が、ほかの料理も勧め出してくれた。