週末シンデレラ


「誰だって嘘をつく。そんなこと、わかっているけど……」
「都筑さ……」

思わず「都筑さん」と呼んでしまいそうになったとき、頭を強く揺さぶられたような衝撃があった。

眼鏡がずり落ち、胸元までふんわりと伸びた栗色の髪が流れる。

……な、なにこれ?

困惑していると、さっきまでアイドルの格好をして歌っていた営業部の人が、肩口から顔を覗き込んできた。

「きみ……ウイッグ、似合ってんじゃーん。眼鏡もぉ……ないほうが、かわいいよぉ」

どうやら、さきほどの余興で使ったウイッグを、わたしの頭にかぶせたらしい。酔っぱらっているのか呂律(ろれつ)が回っていない。

ウイッグをかぶったわたしを確認すると、次々に服を脱ぎながら去って行く。

そのあとを、このままでは裸になる、と同僚が慌てて追いかけていた。

わたしはその光景に圧倒されてしまい、眼鏡もないまま茫然としていた。


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