週末シンデレラ
「か、上川くん……どうして」
わたしの手を引っ張っていたのは、浴衣を着た上川くんだった。
「加藤さん、恋愛に鈍いだけじゃなくて、行動も鈍いんですか?」
少し苛立った様子で、上川くんは腕を離してくれる。思わず身体が萎縮してしまう。
「ど……どういうこと?」
「武田さん、加藤さんがウイッグをつけて都筑係長といるところ、見たことがあるんでしょう?」
「どうして上川くんが知っているの……あっ」
ここはたずねる前に、否定しなくてはいけないところだった。
ハッと口を押さえるけれど、今さら遅い。上川くんは苦笑した。
「武田さんのことは噂で聞きました。それにしても……やっぱり土曜日に見かけた女性って、加藤さんだったんですね」
「……嘘ついて……ごめんなさい」
また嘘を重ねた。上川くんに謝っているのに、頭には係長の顔が浮かぶ。
「いいんです。本当は加藤さんが、トイレでウイッグをかぶり直す前から見ていたんで。でも、声がかけられなかった……貴女が泣いていたから」
「あれは……」
係長に受け入れられなかったショックで、人目もはばからずに泣いてしまった。知っている人に見られていたなんて、考えもしなかった。