週末シンデレラ
「あの駅にいたのは、係長と会っていたからだったんですね。係長とは、たまに同じ電車に乗るので、駅が一緒だということは知っていたんです。それで、見かけたときから疑ってはいたんですけど……こうして、事実を聞くと辛いな」
上川くんはうつむいて、クシャリと髪を握る。
「泣いていたっていうことは、係長になにか言われたんですよね? もしかして、ウイッグつけていたことと関係していますか?」
顔をあげると、熱を帯びた瞳で見つめられる。わたしはその視線から逃れるよう、一歩あとずさった。
「あ……うん、わたし……別人になりすまして、それがバレて……」
「それで、あの人に怒られて……加藤さんは泣いていたんですね」
「怒られた……というか、わたしが悪いから」
「俺なら、怒りませんよ」
「え……?」
聞き返すと、上川くんはジリッと一歩近づいてきた。
「だって、どんな格好をしていても、加藤さんは加藤さんじゃないですか」
「それは、そうだけど……」
でも、嘘をつかれるのは辛いと思う。
わたしも、もし係長に姿を偽って近づかれていたら……と想像すると、怒りに任せて罵倒するかもしれない。
わたしが黙り込んでいると、上川くんは肩をすくめた。
「もっと言いたいことはありましたが……王子様がいらっしゃったんで、また今度にします」
「王子様……?」
上川くんの視線のほうを見ると、係長の姿があった。わたしたちを見て、去って行こうとする。