週末シンデレラ


「ま、待ってくださいっ」

急いで係長のほうへ駆け寄る。追いつくと、彼は足を止めて、拳を握りしめた。

「家に帰ったら、タオルを洗う」
「た……タオル……ですか?」

急になにを言い出すのか。戸惑いながらも聞き返した。

「きみが使ったタオルだ」
「えっ……あ、あの、お借りしたタオルですか!? 一週間前ですよ……?」
「きみの香りが残っていて、ずっと洗えずにいた……」

係長は唇を震わせている。本気で言っているのだと思うと、全身がボッと熱くなった。

「きみが去ったあと……追いかければよかったのか、きみを責めるのは間違いだったのか……ずっと考えていた」
「係長……っ」

係長がそんな風に考えていてくれたなんて、思いもしなかった。……嬉しい。けれど、係長の表情が曇っていることが気にかかる。

「でも、今……追いかけなくてよかったと思ったよ。きみも、ほかの女性と同じだ」
「どういう……意味ですか?」

なにを言われるのか。嫌な予感がして声が震える。

「……嘘をついていたんだろう。上川くんと付き合っているのに」
「つ、付き合っていません」

即座に否定する。だけど、係長の表情は曇ったまま変わらない。

「正直に言ってくれて構わないよ。二股とか……そういうのには、慣れているんだ。五年前に婚約者に裏切られたこともあるし、その前に付き合った女性にも浮気をされたことがある」
「そんな……」

ほかの女性からも騙されていたことがあるとは思わなかった。


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