週末シンデレラ
わたしが言葉をうしなっていると、係長は息をついた。
「わかっているよ、俺の性格が問題なんだ。『マニュアル通りでつまらない』、『面白味がない』、『怖い』……きみもそう思っていたんだろう」
「会社での係長しか知らないときはそうでした……でも、今はそんな風に思っていません」
わたしの気持ちが、どこまで届くかわからない。でも、自分が「つまらない男」なんて思ってほしくなかった。
「無理しなくていい」
「無理じゃありませんっ」
必死になって言うけれど、係長は聞き入れないとばかりに目を伏せた。
「母も、父に隠れて浮気をしていた」
「え……っ」
また、一也さんから聞いていない事実が飛び出し、困惑してしまう。係長は、そんなわたしを気にせず、言葉を続けた。
「父は無表情で、曲がったことが嫌いで、面白くない……俺みたいな男だ。遊びを知らない父は、仕事しかすることがなくて。だから、それなりの役職についていて金も持っていた。母と出会ったのは、たまたま上司に誘われていった飲み屋らしい。そこで働いていた母は、金を目当てに父に近づいた。父は結婚も考えていたけど、母にはそんな気がなかったようだ。
そこに俺ができたのは、誤算だったんだろうな。母は仕方なく籍を入れ……でもいずれ、金だけじゃつまらなくなって、子育ても嫌になって……ほかに男を作って、家を出て行った。最後に、母は俺に『すぐに戻るから』と言った。もう、二十五年も前の話だ」
係長は他人事のように淡々と話してくれた。
そうやって話せるまで、どれほどの苦しみを乗り越えてきたのだろう。そう思うと、心と身体が引きちぎられそうに痛んだ。