週末シンデレラ


以前、エレベーターで上川くんと話をしているところを、見られたことがあった。

あのときはなにも言わず、無関心そうだった。なのに、どうして昨日から……。

「どうして係長が怒るんですか?」

係長を追いかけながら、大きな声でたずねると、彼はやっと足を止めた。

「わたしのことが嫌いなら、無視すればいいのに……どうしてですか?」
「どうしてって……それは……っ」

振り返った係長は、ハッとして口を噤む。

なにかに気づいたようにも見えるし、わたしには心の内を話す必要がないと思ったのかもしれない。

言いたいことを言ってくれなくちゃ、歩み寄ることだってできないのに……。

どうにもならない距離に、寂しさと苛立ちが募る。

「すべての嘘を許してほしいなんて言いません……でも、理解しようとするぐらいしてほしいです」
「理解……きみを?」

係長は訝しげに眉を寄せ、小首をかしげた。

「わたしには以前の係長と、“カオリ”として接しているときの係長と、今の係長は違うように見えるんです。それは係長を理解したいから、きっとわたしの見方が変わってきていて……。そういうことの積み重ねが、深い関係を作るということだと思います」
「……」

係長は難しそうな顔をして、口を閉ざしたままだ。

わたしとはわかりあう気がないのかもしれない。そう思うと、ふつふつと悲しみが湧き上がってきた。

「……わたしを理解する気も、深い関係を作る気もないのなら……もう、放っておいてください」

わたしは係長を追い抜いて、駅へ歩き出した。彼はなにか考えているようで、茫然と立ち尽くしている。

溢れ出そうになる涙を堪えるのに精いっぱいで、前はよく見えていなかった。

「きゃっ……」

うつむいて歩いていたせいで、島へ向かう大荷物の団体とぶつかってしまった。

よろけてしまったわたしは、アスファルトに倒れ込む。しかし、大勢での旅行で盛り上がっている彼らは、気づいていないようだった。


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