週末シンデレラ
「武田さん、上川くんと詩織の噂を流して、都筑係長を狙おうとしてるのかもね。二股だって言わなかったのは、もし係長と付き合うことになったとき、後輩のおさがりだと思われるのが嫌だったからだよ。一度フラれたんだから、諦めたらいいのに」
美穂は呆れたように言うと、席を立った。
茫然としていた間にも、時間は過ぎている。お店を出ると、ふたりで急いで会社まで戻った。
「ねぇ、詩織。都筑係長にも噂のこと、説明しておいたほうがいいんじゃないの?」
エレベーターに乗り込むと、美穂がたずねてきた。
「うん……」
美穂の言葉にうなずきながらも、説明するべきかどうか、悩んでいた。
昨日、係長から「付き合っているそうじゃないか」と言われたときに、ちゃんと否定はしている。それに「信じてほしい」とも伝えた。
「やっぱり……係長には、なにも言わない」
エレベーターが総務部のフロアに到着し、扉の手前にいた美穂がさきに降りる。彼女は考えを変えたわたしを、不思議そうな顔で見てきた。
「詩織、それでいいの?」
「うん……係長は噂じゃなく、わたしのことを信じてくれる……そう、信じる」
わたしのことを理解してくれようと、そして歩み寄ろうとしてくれているなら……係長はきっと、わたしのことを信じてくれるはず……。
祈るような気持で、係長にはなにも言わないと決めた。