週末シンデレラ


「覚えてませんか? 俺がここの入社試験を受けるとき、加藤さんが受付してくれたんですよ」
「入社試験の受付……?」

たしかに、去年の入社試験では人事部の人手が足りなくて、総務課の先輩と一緒に手伝った記憶がある。

でも、人数がたくさんいたので、一人一人の顔は覚えていない。

「俺が緊張して名札を上手くつけられないでいると、加藤さんが『大丈夫、緊張しているのはみんな同じだから』と言ってつけてくれたんですよ」

それは、学校の授業で発表があるときや、なにか緊張する場面があったとき、麻子がわたしによく言ってくれていた言葉だった。

緊張している人を見て、自分が試験を受けたときと重なり、どうにか緊張をほぐせたら……と思ったのかもしれない。

「ご、ごめんなさい……言ったかもしれないけど、あんまり覚えてなくて……」
「いいんです。加藤さんは俺以外の人にもそうやって声をかけていましたから」
「そ、そう……」

誰にでも言っていたなんて、我ながら軽々しい応援だな……と、少し反省する。

「そのときに、加藤さんを優しい人だなぁ……と思ったんです。」
「そんなことで、好きになってくれたの?」
「いえ、それは加藤さんを意識するきっかけのひとつに過ぎません。入社して、貴女の性格や真面目さを知って……だんだんと好きになりました。本当は、社員旅行のときに言いたかったんですけど、邪魔が入ったから……」

係長がやってきたときだ。今度話すと言っていたのはこのことだったようだ。

「俺と……付き合ってくれませんか?」

上川くんの濡れたような瞳が、まっすぐにわたしを見つめてくる。思わず、胸がドキリと高鳴った。


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