週末シンデレラ
「そうやって、また噂を流すのか」
「……都筑係長!」
姿を現したのは、都筑係長だった。手にはベーカリーショップの袋を持っている。
「つ、都筑係長……どうして……」
「武田さんが、ふたりの様子を覗いているのを見ていたよ。ちなみに、ふたりの会話は廊下にいた俺にも聞こえていたけど、『付き合っている』なんて誤解するようなところはひとつもなかった。嘘の噂は、きみが流しているようだな」
「そ……そんな……」
武田さんはひざから崩れ落ちそうになり、近くにあったデスクに手をついた。
係長を落とす計画が破綻となり、かなりうろたえているようだ。
「もっとも、俺は噂じゃなく、加藤さんを信じていたけど」
「係長……」
係長がわたしを信じてくれた……そのことが嬉しくて、今にも涙が出そうになる。
「……わ、わたしの勘違いみたいですね。すみませんでした」
武田さんは体勢を直すと、スマホを置いたまま、事務室からそそくさと去っていった。