週末シンデレラ
「……都筑係長、ありがとうございました」
「いや、俺も彼女の後ろから立ち聞きしていたから……その役目を果たしたまでだ」
眼鏡のブリッジをグイと押し上げ、真面目に言う。すると上川くんが噴き出して笑った。
「立ち聞きの役目って……なんですか、それ。都筑係長って、面白い人ですね」
「俺が面白い? ……言われたことがないな」
係長は不思議そうな顔で、首をかしげていた。
「ふふ……」
「加藤さんまで笑うのか」
「す、すみません」
わたしが肩をすくめると「いや、いいんだけど」と、係長は照れくさそうにしていた。
「それで、都筑係長はどうしてこちらに戻って来られたんですか? 総務部の休憩はまだ三十分以上ありますよね」
上川くんはひとしきり笑うと、係長にたずねた。すると、彼は持っていたベーカリーショップの袋を、わたしのデスクの上に置いた。
「加藤さんのお昼ご飯がないと思って……でも、必要なかったようだな」
「え、わ……わたしのお昼ご飯ですか?」
「ああ、てっきりきみが、大久保さんにコンビニへ行ってもらうのを遠慮しているのかと思ったんだ」
「あっ……!」
美穂に聞かれたときに「買わなくていい」とだけ返事をして、カップラーメンがあることは言っていなかった。
それを聞いていた係長は、わたしがお昼も食べずに電話当番をしていると心配してくれたようだ。