週末シンデレラ


「あ、あの……いただきます! ホントはパンが食べたかったんです」
「俺の昼飯にするから、気にしなくていい。それより、ラーメンが伸びるぞ」

係長はそう言うけれど、袋の大きさからして、明らかにひとりじゃ食べきれそうもない。

「じ、じゃあ、ラーメンとパンを食べます」
「無理に食べなくていい」
「無理じゃありません。係長、わたしの食欲を知ってますよね?」
「……ああ、まぁ……そうだけど」

係長は少し考えたあと、根負けしたように笑って、パンが入った袋を差し出してくれた。

「好きなパンを取るといいよ。せっかくだから、上川くんも何個か持っていってくれ」
「え、いいんですか?」

わたしたちのやり取りを見ていた上川くんは、急に話を振られて目を丸くした。

「もちろんだ。営業は夕方も腹が減るだろう」

係長の言葉を聞いて、上川くんはフッと瞳を細める。

「都筑係長って意外と優しいんですね……安心しました」
「安心?」
「ええ、やっぱり加藤さんにお似合いの人じゃないと、諦めがつきませんから。じゃあ、おひとついただいて……邪魔者は去ります」

上川くんはメロンパンをひとつ取ると、ペコリと頭をさげて事務室から出ていった。

残されたわたしたちは一瞬、しんと静まり返る。少し間を置いて、係長が口を開いた。

「加藤さん。今日の夜、時間あるかな? 一緒にご飯でも……あ、平日はダメだったか」
「い、いいえ、大丈夫です! もう……“カオリ”にならなくていいので」

久しぶりに誘われた嬉しさのあまり、係長の喋りにかぶせるように返事をした。彼はそんなわたしに、優しく微笑んでくれる。

「……そうか。なら、今日の夜……ゆっくり話がしたい」
「はい……わたしも話がしたいです」

コクリとうなずいていると、監理部の人が戻ってきた。留守番をしていたわたしにお礼を言いながらも、隣で立っている係長を不思議そうに見ていた。


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