週末シンデレラ
「上川くんの告白で、きみの気持ちが揺らいでしまったらどうしようかと……少し焦っていたんだよ。彼を選んでも仕方がないとも思っていたし」
「……係長」
「けど、信じたよ。加藤さんが俺を好きだと言ってくれた気持ちを……信じた。きみのことを信じたいと思ったし、信じられると思ったんだ」
「わたしのことを……?」
「ああ。いつも、誰かに裏切られたらそこで関係は終わりだったのに、きみに対してはそうじゃなかった。忘れたいのに思い出してしまうし、馬鹿みたいに嫉妬もした。初めて……誰かを信じたいと心から思ったよ」
母親や恋人に裏切られて傷ついていた係長が、わたしを信じることはすごく勇気がいることだったと思う。
だけど、それを乗り越えて、今そばにいてくれる。嬉しくて、泣いてしまいそうだった。
「それに……もし、きみが上川くんを選んでいても裏切られたなんて思わなかっただろうし、彼から奪い返してもう一度好きになってもらうよう努力をしていたよ」
「ほ……本当ですか?」
「嘘はつかない。……きみに会って気づいたけど、俺は結構しつこい性格みたいなんだ。だから、二度ときみを離したくない」
「係長……そ、それって……あの?」
「……少し回りくどかったな」
係長は眼鏡を押し上げると、まっすぐにわたしを見つめてきた。
「加藤さんが好きだ……俺と付き合ってほしい」
「……わたしも、係長が大好きです」
深くうなずくと、頬に涙が流れた。それを係長の指が優しく拭っていく。そして、ゆっくりとキスをしてくれた。
駅までの道は手を繋いで歩いた。係長の手は温かく、包み込まれるような安心感と穏やかな幸せが胸に溢れてくる。
わたしも、もう二度とこの手を離したくない。その想いを伝えるように、大きな手を強く握り返した。