週末シンデレラ
「すまない……勝手に言ってしまって。噂を消すには、真実を流したほうが早いと思ったんだ」
「いっ、いえ、わたしは嬉しいです。これで上川くんとの誤解も解けますし。でも、係長はよかったんですか?」
「ああ。だから、こうしてみんなの前で言ったんじゃないか。俺のことは気にしなくていい」
「……ありがとうございます」
もしかして係長は、わたしが彼に迷惑がかかると思って本当のことを話せずにいたと、わかっていたのかもしれない。
係長を見上げると、耳を赤くして視線を逸らされた。
「それに……俺だって、きみと他の男が噂されるなんて耐えられないからな」
「か、係長……」
思わぬ言葉に頬が熱くなる。会社だということを忘れてしまいそうだった。
しかし総務部の先輩に詰め寄られ、甘い雰囲気から一気に現実へ引き戻される。
「加藤さん! ちょっと、どういうことか教えてよ」
「最近、係長が丸くなったのって加藤さんのおかげなの?」
「え……でも、あの……」
なんと答えていいかわからず、係長に視線を送って助けを求める。彼は困ったように少しだけ眉を動かすと、息をついた。
「ほら、仕事が始まっている時間だぞ。余計な残業は経費の無駄になるんだからな」
係長がピシャリと言い放つと、先輩たちは「やっぱり丸くなってない」なんて言いながら、渋々席へ戻っていく。
その様子を見ながら、わたしと係長は小さく笑い合ったのだった。