週末シンデレラ
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土曜日。今回は麻子にメイクを頼むことはやめた。
理由は“サトウカオリ”じゃなく“加藤詩織”として会いたかったから。自分のできる範囲で、オシャレをしたかった。
「アイラインはこんな感じかな……あとはマスカラを……あっ、目蓋についた!」
黒縁眼鏡からコンタクトに付け替え、慣れない手つきで次々にメイクを施していく。メイク初心者のわたしには、マスカラをつけることさえ難しい。
苦戦しながらできた顔は “カオリ”より派手さは劣るものの、いつもの自分より華やかだった。
ヘアアイロンは昨日の仕事帰りに買い、寝る前に何度も練習した。そのかいもあってか、丸みのあるツヤツヤのボブに仕上がった。
「よ、よし……」
鏡の前に立ち、全身をチェックする。
今日は秋らしく落ち着いた色合いのワンピースを選び、肩掛けの小さなバッグを持った。出来上がりを確認し、ヒールが低めのパンプスを履いて外へ出る。
秋晴れの空はすがすがしく、空気も爽やかで気持ちいい。
「お、おはようございます」
マンションの下で車を停めていた係長に、高鳴る鼓動を抑えながら声をかける。
オシャレをした“加藤詩織”を見られるのは初めてなので、緊張で声が上擦った。