週末シンデレラ


* * *


土曜日。今回は麻子にメイクを頼むことはやめた。

理由は“サトウカオリ”じゃなく“加藤詩織”として会いたかったから。自分のできる範囲で、オシャレをしたかった。

「アイラインはこんな感じかな……あとはマスカラを……あっ、目蓋についた!」

黒縁眼鏡からコンタクトに付け替え、慣れない手つきで次々にメイクを施していく。メイク初心者のわたしには、マスカラをつけることさえ難しい。

苦戦しながらできた顔は “カオリ”より派手さは劣るものの、いつもの自分より華やかだった。

ヘアアイロンは昨日の仕事帰りに買い、寝る前に何度も練習した。そのかいもあってか、丸みのあるツヤツヤのボブに仕上がった。

「よ、よし……」

鏡の前に立ち、全身をチェックする。

今日は秋らしく落ち着いた色合いのワンピースを選び、肩掛けの小さなバッグを持った。出来上がりを確認し、ヒールが低めのパンプスを履いて外へ出る。

秋晴れの空はすがすがしく、空気も爽やかで気持ちいい。

「お、おはようございます」

マンションの下で車を停めていた係長に、高鳴る鼓動を抑えながら声をかける。

オシャレをした“加藤詩織”を見られるのは初めてなので、緊張で声が上擦った。


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