週末シンデレラ
なにを作ろう……男の人だしお肉がいいかな。そういえばお家へ行ったとき、食器があまりなさそうだったなぁ……。
車窓の景色なんて眺めている余裕はない。わたしは頭をフル回転させ、数少ないレパートリーから係長にピッタリなご飯を探していた。
そ……そういえば家族以外にご飯を作るなんて初めてだ。
どんな反応をされるのかと考えると緊張する。だけど、係長のために作れることは嬉しかった。
スーパーに着くと、係長が買い物かごを持ってくれて、わたしがその中へ食材を入れていく。
……新婚みたいで気恥ずかしい。小さな幸せを噛みしめていると、係長が生活用品のコーナーで立ち止まった。
「ついでに歯ブラシも買っておこうかな」
「は、歯ブラシ……!?」
そうだ。係長の家なんだからご飯を食べたあともゆっくりできるし、そうなると、い……イチャイチャするかもしれないし……き、キスだって……。それにもしかしたら、キス以上のことも……!?
「俺の歯ブラシ、毛が広がってきたんだ」
「あ、係長の歯ブラシ……」
わたしってば……なに馬鹿なことを考えてるんだろう。係長はまったくやましいことなんて考えてなかったのに。ひとりで焦って慌てて……。
恥ずかしくなってうつむいていると、係長がクスリと笑った。
「加藤さんのも買っておこうか」
「えっ、わた……わたしの歯ブラシですか?」
「ああ、歯磨きしておいたら、帰ってからも少し楽だろう」
「あ……はい。楽……です」
係長はわたしを家に帰そうと、紳士な対応をしてくれている。大事にされて嬉しいはずなのに、なんでこんなにガッカリするんだろう。
買い物かごに入れられた水色とピンク色の歯ブラシを見つめながら、ひとり肩を落とした。