週末シンデレラ


買い物のあと、十五分ほど車で走ると、マンションに到着した。部屋へ入ると、係長がピンク色のチェック柄のスリッパを出してくれる。

いつ、わたしが来てもいいように、買ってくれていたらしい。係長は色違いで青色のスリッパを履いていた。

「係長、エプロンってあるんですか?」
「いや、ないんだ。さっき買えばよかったな。今度一緒に買いに行こうか」
「はい、お願いします」
「食器もひとり分だとなにかと不便だから揃えたいな。今日料理をしてみて、他にほしい調味料とか道具があったら、それも教えてくれ」
「はいっ」

係長の部屋に、少しずつわたしのものが増えていく。照れくさくて、胸がくすぐったかった。

料理はロコモコを作った。お肉だし、野菜も取れるし、一枚のお皿に盛れる。

決して手際がよかったわけじゃないけど、我ながら見た目も味も上出来だった。

係長は残さずに食べてくれて、料理を作ってくれた代わりに……と言って洗い物をしてくれた。

「ご飯ありがとう、すごく美味しかったよ。はい、コーヒー」
「いえ……係長もコーヒー、ありがとうございます」

係長は洗い物が終わると、コーヒーを入れてくれた。差し出されたカップを受け取ると、ソファに座っていたわたしの隣に腰をおろす。

拳二個分ほどの距離は、肩が触れそうで触れなくてもどかしい。

目の前にあるテレビはついているけれど、内容は全然頭に入ってこないし、係長がそばにいると思うとドキドキして落ち着かない。


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