週末シンデレラ


「でも征一郎さんが近くにいると上手くいかないんだよなぁ」

どうしてもドキドキして手が動かなくなる。ひとりで呟きながら、ライスをお皿に盛っていると。

「悪いな。ご飯は一緒に作ると言ったのに」
「せ、征一郎さん!」

征一郎さんが濡れた頭を拭きながらお風呂から出てきた。Tシャツにグレーのゆったりとしたスウェットを履いている。

会社で見慣れていたスーツ姿から、ラフな私服姿を見ただけでキュンとしたのに、さらに部屋着となると素の征一郎さんそのものみたいでどこを見ていいかわからない。

だけど、そんな姿を見せてくれることがすごく嬉しい。

「ん……この匂い、オムライスか?」

征一郎さんはタオルを首にかけると、匂いに誘われてこちらにやって来た。

「そうです。お好きですか?」
「ああ、美味しそうだ」

わたしの隣に立つと、卵を焼いている手元を覗き込んでくる。

ち、近い……距離が近い!

肩に征一郎さんの胸板が当たり、卵を焼くだけなのに、緊張して手元が狂ってしまいそうだった。

なんとかこがさずに焼き、火を消して、ライスを盛ったお皿へ持って行こうとする。

だけど、征一郎さんはわたしにピッタリとくっついたまま、なぜか動かない。


< 228 / 240 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop