週末シンデレラ


「あ、あの……卵が……っ」
「卵? ああ、悪い。手が震えているな、フライパンが重たかったか?」

征一郎さんはそう言うと、フライパンを持っていたわたしの手に、大きな手を重ねた。

どうやらわたしが重たがっていると考えて支えてくれているらしい。だけど、これではドキドキがおさまるどころか増すばかりだ。

「わ、わざとやってますか?」

つい、そんな風に疑いたくもなってしまう。

チラリと鋭い目つきで征一郎さんを見上げると、征一郎さんは不思議そうに首を傾げた。

「なにを…………あっ、わ……悪い」

わたしの言葉の意味に気づいた征一郎さんはパッと手を離した。彼の表情が、涼しげなものから一気に慌てふためいたものへと変わる。

「い、いえ……いいんですけど……ね」

近づいてくれるのも、同じ香りがするのも嬉しい。ただ、わたしばっかりドキドキしているのが、なんだか悔しかった。

……でも、慌てた顔を見せてくれたから……いいかな。かわいかったし。

「ふふ……」
「な、なにを笑っているんだ?」
「なんでもありませんよ」

まだ慌てている征一郎さんににっこりと笑いかけ、卵をライスの上に盛りつける。ふたりで食べたオムライスは今まで食べた中で一番美味しかった。



【完】

*本編の続きです。思いついたので、書いてみました*


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