週末シンデレラ
「征一郎さん。すみません、コーヒーの買い置きってありますか? 足りると思ったんですけど、ちょっと少なかったみたいです」
「新しいのがあるよ。そこの棚の、一番下にある」
流しの隣に置いた、電子レンジや炊飯器が置いてある棚の一番下を指差した。
「ここですね。ありがとうございます」
そう言うと、詩織はしゃがみ込み、棚を開けて探し出す。
「…………」
か、かわいい……。
ちょこんと小さくなった詩織は、俺が覆いかぶされば、全て包み込めてしまいそうなほどの大きさ。その姿に胸が高鳴る。
「あ! ありました」
買い置きしているカップラーメンなどの奥から、コーヒーの瓶を取り出した詩織は、俺を見上げてにっこりと笑った。
抱きしめたい。キスしたい。大切にしたいと思ったばかりなのに、詩織の言動ひとつでそれは簡単に欲求へと変わってしまう。
「ああ……よかった。コーヒー、お願いするよ」
「はい。じゃあ、征一郎さんはソファで待っていてくださいね」
その言葉に素直に従う。これ以上、詩織のそばでいたら、自分がなにをするかわからない。
こんな穏やかな昼下がりから求めてしまうなんて、思春期などとっくに過ぎた大人だというのに恥ずかしい。コーヒーでも飲んで、少し落ち着くべきだ。
ソファに座り、窓からカーテンを透かして降り注ぐ十月の斜光を浴びながら、せり上がってくる衝動を抑える。
三分も経たないうちに、詩織がふたつのマグカップを持って、こちらにやって来た。
「コーヒー、入りましたよ」
「ありがとう」
……奥さんみたいだ。結婚したらこんな感じか……っと、なに考えているんだか。
温かな光景に、つい妄想が飛躍してしまう。慌てて歯止めをかけ、詩織からマグカップを受け取ると、彼女は俺の隣に腰を下ろした。
コーヒーの芳ばしい香りに混じって、詩織の香りがする。