週末シンデレラ


「詩織……ありがとう」
「えっと……なんのお礼でしょうか?」

唐突なお礼に気の利いた言葉を返すことができず、首をかしげて聞き返した。

ご飯も征一郎さんが支払ってくれたし、こうして家まで送ってくれている。わたしがお礼を言うのならわかるけれど、なんで征一郎さんが?

「いや……好きになってもらったお礼を言っていなかったと思って」
「へっ? 好きに……って、そんな……」
「独り言じゃなく、ちゃんと言ってほしいと言っただろう」

さきほどわたしが言ったことを気にしてくれていたようだ。

「そういえば、まだ言ってなかったと思って。よく懲りずに俺と向き合おうとしてくれたな……って、謝りはしたけど、お礼を言っていなかったから」

“カオリ”がわたしであるとバレたとき、征一郎さんが示した強い拒絶。わたしよりも彼のほうがずっと気にしている。

「いえ、こちらこそ……でも、それってお礼を言われるようなことじゃないと思うんですけど」

たしかに言われると嬉しい。でも、なにかが違う。

「お礼じゃないのか……でも、言いたくなったんだよ」
「それは嬉しいんですけど……なんていうか、うーん……わたしはお礼というより、征一郎さんに“好き”って伝えたいですし、言ってほしいです」

お礼を言われて感じた違いはこれだ。

「なっ……!」

征一郎さんはずれてもいない眼鏡を押し上げ、何度も瞬きを繰り返していた。

お互いに想い合っているのなら、「好き」という言葉に「好き」と返してくれれば、それが感謝も愛も詰まった最大限の表現になる。そう思うんだけど……。


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