週末シンデレラ
「征一郎さんは……そうじゃないんですか?」
眼鏡の奥に潜む気持ちを知りたくて、じっと見つめる。征一郎さんは気を落ち着けるためかひとつ深呼吸をしていた。
「俺もきみが好きだ。……いや、けど……好きという簡単な言葉で片付けられるものではなくて、もっと深い言葉で言いたいんだよ。きみと仕事の上司と部下ではなく、こうしてひとりの男女として接するようになって、日常生活が楽しくなったんだ。それってすごいことだと思わないか」
「は、はい……」
「ひとりでいるときもきみのことを考えると楽しくて……いや、きみといるときのほうがもっと楽しくて、心地よくて、たとえようもないくらい幸せなんだけど……好きというより愛おしいというのに近いかもしれない」
「あ、あのっ……せ、征一郎さん……っ」
「ん?」
「わ、わたし……のぼせて、倒れてしまいそうです……」
一気に浴びせられた甘い言葉に、身体中が熱くなる。
「わ、悪い……俺はなにを言っているんだ……」
言った本人も、首裏に手を回しながら俯いて照れていた。
……今夜、眠れなかったらどうしよう。
「明日、クマができていたら……征一郎さんのせいですよ」
「え、クマ? 俺のせい? すまない、説明してくれないか」
顔を上げた征一郎さんは、目を丸くしていて本当にわかっていない様子だった。
「なんでもありません。征一郎さんはゆっくり休んでくださいね」
「ま、待ってくれ。なにか気分を悪くさせたかな?」
ちょっと拗ねた言い方をすると、征一郎さんはアタフタと慌てていた。彼にクスリと笑い返すと、わたしはマンションの中へ入ったのだった。
【完】
*やっと二人の週末が終わりました。征一郎はちょっとつつくだけでいっぱい出てくると思います。
お付き合いいただき、そして、皆様のおかげで大賞をいただくことができました。本当にありがとうございました*