週末シンデレラ
「いや、ここで話していても仕方ない。……少し歩けるか?」
「もちろんです」
本当は足が痛かったけれど、大丈夫だと言った手前、強がるしかない。
わたしが手すりを持ちながら立ちあがると、係長はわたしのもう片方の手を持って支えてくれた。
「歩けないようなら、ここにいてくれても構わない」
「わたしは歩けます!」
ついムキになって、強い口調で言い返してしまう。係長はひるんだように、支えてくれていた手を引っ込めた。
「あ……すまない、言い方が悪かったかな」
「え?」
皮肉で「歩けないなら」なんて言われたのかと思ったので、謝られて驚いてしまう。
わたしが目を瞬かせていると、係長はあごに手を当て、しばらく言葉を選んでから口を開いた。
「……き、きみの怪我が心配なんだ。また転ぶと危ないから、無理はしなくていい。ゆっくり歩いて、改札近くにあるコーヒーショップで待っていてくれ」
「あっ……都筑さ……」
それだけ言って、係長は入ったばかりの改札を出ていく。去り際に見た係長の耳は、少しだけ赤かった。
このまま帰るのだと思っていたのに、改札の外にあるコーヒーショップで待っていてなんて、どういうことだろうか。
しかも、係長はどこへ行くのかも言わずに姿を消してしまった。
「い……意味わかんない……」
もう帰ってしまおうか。どうせ、今日限り会わないし……。
だけど、わたしを心配だと言ってくれた係長が気になる。
それにまだ足も痛かったので、言われた通り、コーヒーショップで係長を待つことにした。