週末シンデレラ
「さきに言っておくが、女性の趣味はわからない」
「……は?」
「くわえて、きみとはまだ出会って数時間だから、余計にわからない」
「はぁ……」
「一応、きみの服装を伝えて女性の店員に選んでもらった。気に入らなければ帰って捨ててくれても構わない。開けてみてくれ」
「は、はい」
係長がなにをしたいのか、なにを言いたいのかわからず、とにかく言われた通りに紙袋を開けてみることにした。
中から出てきたのは四角くて白い箱。
ひざの上に置いてフタを取ると、キラキラと輝く大きめのビジューがついた、薄ピンクのミュールがあった。
「……これ」
取り出してみると、ヒールは一、二センチの歩きやすそうなもので、甲に当たる部分もやわらかく、足に負担がかかりにくそうに思えた。
「踵を痛めているなら、靴よりサンダルがいいと思ったんだ。サイズはわからなかったけど、これなら融通が利くだろう」
「あ……ありがとうございます」
突然消えたと思った係長は、駅に隣接しているデパートへ、わたしの靴を買いに行ってくれていたのだ。
……しかも、息を切らして、急いで。
「あの、お金……っ」
「ああ、それとこれも買ってきた」
わたしがミュールのお金を払おうと、バッグから財布を取り出していると、それを遮るように係長がコンビニの袋を探りだした。