週末シンデレラ
総務課長や経理課長は、優しいといえば聞こえがいいけど、基本的に仕事態度や規則にゆるい。
ふたつの課をまとめる総務部長はいるけど、席をはずしていることが多いので、総務部が仕事中にピリリと締まっているのは都筑係長のおかげかもしれない。
向かいにある経理課のほうを見ながら席へ着く。
パソコンの横から覗き見た都筑係長は、しゃんと背すじを伸ばし、忙しなくキーボードを打っていた。……が、その手をとめると美穂を呼んだ。
「大久保さん、ちょっと」
「は、はい……」
返事をする美穂の顔はこわばっていた。彼女を見ていたわたしまで、肩がすくみあがってしまう。
「ここの合計にマイナスがでている説明をしてほしいんだが」
隣に立った美穂に、都筑係長は書類を指先ではじきながら説明を求める。
美穂を問いただす声音は、あまり抑揚がなく冷静そのものだけど、むしろそれが怖い。
「えっと……」
「きみが入力したのに、わからないのか?」
都筑さまなら、彼女に問わずともわかっているでしょうに……。
美穂を追及する都筑係長に、わたしはため息をついた。
「ここの入力が違うからだ。だいたい、数字のひとつひとつをなんの数字か、きちんと把握していないからミスをするんだ」
「す、すみません……」
美穂は口ごもりながら頭を下げる。
ミスがわかっているなら、最初から指摘すればいいのに。
都筑係長の回りくどい叱責に、自分のことでなくともげんなりしてしまう。こういうところが苦手だ。
美穂に「頑張れ」と心の中でエールを送りながら、わたしは自分の仕事を進めることにした。
だけど、今度はわたしが呼ばれる番だった。