週末シンデレラ


あの、冷徹そうで彫像のような係長が、息を切らしながらデパートへ駆けこんで、女性ものの靴を買うなんて誰が想像できただろう。

しかも怪我の手当てまでしてくれるなんて……。

今日一日で、何度も係長のイメージを覆(くつがえ)されている。

わたしが胸に高鳴るものを感じながら見つめていると、係長は手際よく足首に湿布を貼ったあと、踵には絆創膏を貼ってくれた。

「怪我はこれでいいだろう」
「はい。本当に、ありがとうございます」
「次は、サンダルを貸してくれ」
「え、あっ……はい……」

手当ても終わったし、これで立ちあがるのかと思いきや、彼はまだ座り込んだまま、今度はわたしに手を差し出してきた。

戸惑いながらも箱から出したミュールを手渡すと、傷を気遣いながらそっと履かせてくれる。

サイズは、わたしの足にぴったりだった。

男性からこんな風に、大切そうに扱われたのは初めてで、わたしの胸はトクンと音を立てた。

……ど、どうしよう……都筑係長がかっこよく見える……。

いくら容姿がよくても、中身に問題があったから絶対好きになることはないと思っていたのに、これでは少し……心が惹かれてしまう。

「どうかな?」
「えっ……あ、はい?」

ぼーっとしながら係長を見つめていたので、急にたずねられてうろたえてしまう。

わたしが聞き返すと、係長は嫌な顔ひとつせずたずね直してくれた。

「少しは楽になっただろうか?」
「はい、すごく楽になりました。しばらくここで休んでいれば、痛みも治まると思います」
「それならいいが、強がって無理はしないように」
「う……はい」

こういうところは、やっぱり係長だ。


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