週末シンデレラ
「俺もコーヒーを買ってくる」
係長は立ちあがると、カウンターへ向かった。
まだ、一緒にいてくれるんだ……。
係長のしゃんと伸びた背中を見ながら、その優しさを嬉しく感じる。
やがて、係長はアイスコーヒーを片手に持って、こちらへ戻ってきた。
わたしの向かいに腰をおろすと、ポロシャツの胸元を持ってパタパタとあおぐ。
「ここは人が多いからか、空調の効きが悪いな。会社の食堂みたいだ」
「ホント、そうですね」
「ん?」
「い、いえ……わたしの会社もそうなんですよ。あっ、それより都筑さん。靴と湿布などのお金を払いたいのですが、おいくらでした?」
つい、食堂のことに同意してしまい、焦りながら気になっていたお金のことに話を逸らす。
すると、係長は耳を隠すように眼鏡のテンプルに手を添え、少しうつむいた。
「お金はいい。……久しぶりに、いいものを見せてもらったからな」
「……いいもの? わたし、なにか見せましたっけ?」
「きみはすべて言わないと理解できないのか? それとも、足にさほど価値を置いていないということか」
係長は呆れ果てたようにため息をついて、頭をかかえた。
だけど、そんな風に呆れられても、わたしにはなにがなんだか、わからない。
足に価値って、どういう意味……?
考えながら自分の足を見ると、湿布と絆創膏で手当てされ、新しいミュールを履いていた。
「ああっ、足ですか! さきほど見てもらいましたもんね。もう、都筑係長が回りくどい言い方するから、いいものがなにか考えたじゃないですか……って……あっ」
つ、都筑係長って呼んじゃった……!
ハッとして口を押さえるが、さすがにごまかしようがない。ついにバレてしまっただろうか……。