週末シンデレラ
こわごわと上目で係長を見ると、目を丸くしてポカンと口を開けていた。
「あ……あの、すみません。つい都筑さんが上司に見えて“係長”なんて……いえ、都筑さんがわたしの上司であるわけはないんですけど。ついですね、つい……」
ひとりで言い訳をしながら、背中に嫌な汗が流れていくのを感じる。
係長はわたしをじっと見つめたまま、表情を変えない。
これでは、わたしのことに気づいているのか、それともべつのことで放心しているのか、わからない。
ああ、もう……素直に謝ったほうがいいのかな。
そう思い、観念しかけたとき……。
「くっ……」
「つ、都筑さん……?」
係長が肩を揺らし、クックッと笑いだした。
「いや、きみは面白いな」
「え?」
「自分が回りくどい言い方をすることはわかっているんだ。だけど、一也にしか注意されたことがなかった」
「そう……ですか」
係長の言葉を聞きながら、わたしはホッと胸を撫で下ろした。
よ、よかったぁ……!
どうやら、わたしが”都筑係長”と呼んだことは、会社で呼び慣れているせいか、彼は気づかなかったらしい。
「まさか、今日会ったばかりの女性に注意をされるとは思わなかった」
「わたしだって、今日会ったばかりの男性に馬鹿って言われるとは思っていませんでした」
「そうだな。俺は恋愛する気がないと言ったり、君は手当てしている俺のことを笑ったり、お互いに失礼なことが多かった」
係長はコーヒーをひと口飲んで、穏やかな微笑みを浮かべる。
初めて見るその表情に、不覚にもわたしの胸はドキリと跳ね上がった。