週末シンデレラ
や、やっぱり……これって、係長にときめいているってことなのかな……。
自覚しつつある感情に困惑していると、係長が眼鏡を押しあげて、こちらを向いた。
「きみは……カオリさんは、嘘がつけなさそうだな」
「え……?」
心地よい夢から叩き起こされたようだった。胸がドキリと跳ねたばかりだというのに、一気に現実へ引き戻される。
嘘がつけなさそう……って、やっと呼んでくれた名前も……嘘だというのに。
罪悪感が胸を突き刺す。わたしがなにも言えずに固まっていると、係長はそれに構わず言葉を続けた。
「それに、変わっている」
「か、変わっているって……それ、いい意味なんですか?」
「もちろんだ。今までに出会ったことがないタイプの女性で、すごく新鮮なんだ」
「新鮮……?」
「女性は猫をかぶるものだと思っていたし、言いたいことがあっても遠慮すると思っていたから」
「……そう、ですか」
女性が猫をかぶるのは、きっと係長が男性として魅力的だから。
容姿はかっこいいし、少し話しただけでもわかるほど真面目で、スピード出世の噂がささやかれるほど仕事もできる。
だから、彼を旦那様に……と考えて、ちょっとでもいい自分を見せたくなるのだろう。
「あ、カオリさんが図々しいと言いたいわけじゃないんだ」
「図々しいって……」
この人、やっぱり不器用な人だ。
クスリと笑うと、係長は「申し訳ない」と言って頭を下げた。
本当に謝らなくちゃいけないのは……わたしのほうなのに。