週末シンデレラ
「……きみ以外に誰がいる」
「だ、だって……わたしの連絡先なんて聞いて、どうするんですか?」
「もちろん、カオリさんと連絡をとりたいからだ。電話かメールをする」
「でも、どうしてわたしなんかと……」
「カオリさんが気になるからだ。それ以外になんの理由がいる。言っておくが、今は俺が回りくどいんじゃなくて、きみが鈍(にぶ)すぎるんだぞ」
「す、すみません……」
たしかに、男性と一緒に食事をして連絡先を聞かれれば、相手が好意を持ってくれていると思うかもしれない。
だけど、今はその相手が都筑係長だ。
まさか……本当はわたしが“加藤詩織”だと気づいていて、あとで仕返ししようとしているんじゃないか……なんて、勘ぐってしまう。
「また、会えないだろうか」
「ええっ!?」
また会う!? 係長と……サトウカオリとして……?
わたしがひっくり返りそうなほど驚いていると、係長は顔を曇らせた。
「ダメかな。まぁ……もともと二時間の辛抱だと思っていたし、俺も恋愛する気がないと言っていたし。無理なら構わない」
そう言って瞳を伏せる係長が寂しげに見える。まるで、雨の中に捨てられる子犬のようだ。
「いっ、いえ……無理というわけじゃなくて……っ」
係長のそんな顔を見ていられなくて、うっかり了承の返事とも取れることを口にしてしまう。
彼から期待のにじむ瞳を向けられ、ハッと我に返った。
断らなければいけないはずなのに、どうして「無理じゃない」なんて、言ってしまったのか。
「そうじゃなくて……。し、失礼なことばかりしていたから、お誘いいただけるとは思っていなかったので、驚いてしまっただけなんです……」
言葉を続ければ続けるほど、言わなくちゃいけないことから遠ざかっていく。パァッと明るくなる係長の顔に、胸の奥が痛んだ。
「なんだ、そういうことか。なら、連絡先を受け取ってくれるかな?」
「はい……」
もう、うなずくしかなかった。