週末シンデレラ
「で、でもやっぱり……アプリは最初の設定に手間がかかりますね。わたし、紙とペンを持っていますから書きますよ」
係長はまだアプリを探してくれていたが、わたしは手帳のメモページをちぎり、素早く電話番号とメールアドレスを書いた。
アドレスには“shiori”と入っていたけれど、あだ名ということになっているし、問題はないだろう。
書いた紙を渡すと、係長はすんなりと受け取ってくれた。
「ありがとう。帰ったらメールを送るよ」
「はい。では……おやすみなさい」
電車の到着を知らせるアナウンスが流れている。
わたしは係長に頭をさげると、今度は転ばないように気をつけながら階段をおりて、電車へ乗り込んだ。
空いていた座席を見つけて腰をおろすと、身体の底からどっと疲れが出た。
あの都筑係長とプライベートでつながってしまった……しかも“サトウカオリ”という別人として……。
これから、どうしたらいいんだろう……。
さきのことを考えると、家に帰ってからもなにも手につかず、明け方まで寝付けなかった。