週末シンデレラ
二章:二度目の嘘
都筑係長のメールは、日曜日の朝にきた。
女性にどんなメールを送るのかとドキドキしていたけど、自分の名前と連絡先だけを書いたシンプルなものだった。
おそらくいろいろと考えて、余計な文面を削除した結果なのだと思う。
「気まずいなぁ……」
月曜日。出勤前にもう一度、係長から送られてきたメールを見て、これから彼と会うのだと思うと、気が重くなった。
このメールを見たときは、あまりにも係長らしくてクスリと笑ったけれど、今はそんな心の余裕はない。
「でも、係長はわたしのことに気づいてないし……普通にしていればいいんだよね」
自分に言い聞かせると、黒縁眼鏡にほぼスッピンという“加藤詩織”のスタイルで会社へ向かった。
二十分前に出勤すると、五十人が働くフロアには半分ほどの人がいた。その中に背すじが伸びた係長の姿を見つける。
すでに仕事をはじめているようで、パソコンの画面に目をこらし、忙しなくキーボードを打っていた。
給料日が近いから、仕事がたて込んでいるのだろう。
「お、おはようございます」
気まずさと嘘をついた後ろめたさから、係長に気づかれないように身体を小さく屈めながら席に着いた。
しかし、そんなわたしを係長はしっかりと見ていたらしい。
「加藤さん、ちょっと」
「は、はいっ!」
係長に呼ばれ、口から心臓が飛び出そうになり、瞬時に身体が強張る。わたしは上擦る声で返事をすると、恐る恐る彼のもとへ向かった。
ま、まさか……やっぱりバレたんじゃ……。
怯えながら係長の隣に立つと、見上げられて目が合った。土曜日のことを思い出し、思わず胸が高鳴る。
「さっき武田さんから電話があって、体調が悪いから今日は休むそうだ」
「あ……た、武田さん……」
なんだ……バレたわけじゃなかったんだ。
「知っていたのか?」
わたしが曖昧な返事をしたからか、係長は訝しげにたずねてきた。
「い、いえ。ありがとうございます」
わたしは頭をさげると、足早に自分の席へ戻った。
よかった……バレてない!
ホッと肩の力が抜けていく。これから仕事が始まるというのに、もう仕事終えた気分だった。