週末シンデレラ


今日はいい一日だった。

都筑係長の一言が効いたのか、武田さんから仕事を押しつけられなかったし、自分の仕事もスムーズにできて、定時に帰ることができた。

「係長に、ちゃんとお礼を言えばよかったなぁ」

わたしの仕事ぶりを認めてくれたうえに、武田さんにまで言ってくれた。なのに、あまりの嬉しさからお礼を言い忘れてしまった。

これでは、たとえ“カオリ”としてでも、「言い方が悪い」「言葉が足りない」と、係長に注意ができた立場ではない。

でも、明日お礼を言うのも変だしなぁ……またなにか褒めてもらったときに言えたらいいけど、もう一度褒めてもらえる自信はないし……。

唯一、係長とつながっているスマートフォンを見つめながら、どうしたものかと思いあぐねる。すると、画面がメールの受信中に切り替わった。

ま、まさか……!

ドキリと胸が跳ね、わたしは届いたばかりのメールを開いた。

『お疲れさま。その後、カオリさんは上司とうまくやっているのか?』

メールは係長からだった。

タイミングがよすぎる……。

思わず誰かに覗かれているんじゃないかと部屋を見渡すが、そんなはずはないと思い直し、返事を打ち込むことにした。

『はい。厳しいはずの上司が昨日から優しいんです。しかも、今日はわたしの仕事ぶりを認めてくれたんですよ。こんなこと初めてだから、すごく嬉しかったです』

メールを送信し、係長が「そう言えば俺も同じようなことをしたし、彼女に感謝されているのかな」なんて、気づいてくれたらいいな、と思う。

少し時間が経ってから、係長からの返信が届いた。

『その上司は、本当に俺と似ているのか? 俺はまったく優しくなれそうもない。どうやったら優しくなれるのか、教えてほしいものだな』

教えてほしいって……係長、わたしに優しくしたつもりはなかったんだ。

これでは、わたしが感謝していることは、気づいてもらえそうもない。

仕事はできるのに、鈍感な係長が微笑ましくて、わたしはひとりで小さく笑った。


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