週末シンデレラ


『明日の夜、一緒にご飯でもどうだろうか?』

や、やっぱり……ご飯のお誘い!

水曜日は会社で「NO残業デー」と命名されており、極力残業はしないように呼びかけられている。

いつも忙しそうな係長も、急ぎの仕事がないときは、必ず定時に帰っていた。

「こ、断ろう」

連絡先を聞かれたとき「また会いたい」と言われていたので、いつか誘われるかもしれないと覚悟はしていた。

しかし、また“カオリ”に変装しなくてはならないし、係長を騙すことになるので、できれば話が流れてしまわないかと願っていた。

それに、会って食事をし、もし係長といい雰囲気になれたとしても、わたしが “カオリ”のままでは、未来が望めないことはわかりきっている。

『ごめんなさい。予定があります』

メールを作成し、嘘をつかなければいけないことに胸が痛む。

本当は、一緒にご飯へ行って、もっと係長と話がしてみたい……。

揺らぐ決心が怖くて、勢いよく送信ボタンを押す。

画面に表示された「送信完了」の文字を見て、かき込むように食べたパスタは、なにも味がしなかった。


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