週末シンデレラ


係長の返事は、食べ終えて食器の片付けをしたあとも、届いていなかった。

もちろん、このまま返信がこなくても不思議ではないし、連絡が途絶えたほうが、これ以上嘘をつかなくていいので、楽だとわかっている。

……なのに、妙に気になる。

係長が傷ついていないか心配だし、返信がこないことを寂しいと感じている自分もいる。

わたしはしばらく、スマホを目の前のローテーブルに置いたまま、テレビを見ることにした。

けれど、テレビよりもスマホのほうへ意識がいってしまい、バラエティは笑えないし、チャンネルを変えて音楽番組にしても耳を素通りしていくばかり。

そろそろお風呂にでも入ろうかと腰をあげたとき、スマホがメールを受信した。

『予定があるなら残念だ。では、木曜日はどうだろうか?』

その日も、なにも予定はないけど……ダメなんです……。

思ったよりも積極的な係長に驚き、申し訳ないと思いながらメールを打つ。

『その日も予定があります』

係長からは、五分後に返信があった。

『そうか。なら、金曜日はどうだろう?』

なおも食いついてくる係長に、胸の奥が熱くなり、同時に罪悪感で焼けつきそうなほど痛くなった。

『その日も予定があります。すみません』

こんなに予定が入っているなら、遊んでいると思われるかもしれない。それとも、他に男がいると怪しむだろうか。

『忙しいようだな。身体を壊さないように』

十分後に届いたメールは、最後までわたしを気遣ってくれていた。

これでいいんだ、これで。

断ったことは正しいと思うのに、心はすっきりとしない。なかなかお風呂へ入る気になれず、テレビの前で座り込んでいた。


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