週末シンデレラ


わたしと目が合うと、大きな瞳を細め、ふっくらとした唇をほころばせた。

「よかった、残っているのが加藤さんで」

耳にかかるくらいに伸ばされた黒髪を揺らし、嬉しそうな顔でこちらに駆け寄ってくる。

ストライプの半袖シャツをまとった痩身(そうしん)は、蒸し暑い真夏の夜だというのに、涼しい初夏のような爽やかさを醸し出していた。

「上川くん、どうしたの?」

わたしが小首をかしげてたずねると、上川くんは顔の前で両手を合わせた。

「すみません、じつは加藤さんにお願いがあって」
「わたしに?」
「はい。今、外回りから戻ってきたんですけど、ちょうど名刺が切れちゃったんです。明日も新規のところを回るので、昼までにどうにかならなかなぁ……と」

上川くんは歯切れ悪く言うと、両手を合わせたまま、上目遣いでわたしを見てきた。

名刺は業者に注文してから早くても二日はかかる。いつも残り少なくなったら、早めに総務課へ言うよう、総務部長が営業部へ注意をしていた。

そのことを、上川くんは承知のうえで頼んできているらしい。

「前に先輩が名刺を切らしたとき、総務課の人に市販の名刺用紙で作ってもらったと言っていて……それを、加藤さんにお願いしてもいいですか?」

瞳が心なしか潤んでいるように見え、形のいい眉は八の字に下がっている。

そんな顔されて、断れるわけないよ……。


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