週末シンデレラ


わたしがうつむくと、係長は「あー……」と言いにくそうに言葉を足した。

「それと……唇の色、悪くないから気にしなくていいと思う」
「あ、ありがとうございますっ」

係長が少し照れながらしてくれたフォローに、嬉しくて顔をあげると、彼はわたしの足元をじっと見つめていた。

「そのサンダル……まだ捨ててなかったんだな」

係長は、わたしがミュールを気に入らなかったと思っていたのか、目を丸くして意外そうに言った。

「捨てるなんてできませんよ。せっかく買っていただいたのに。それに、可愛くて履き心地もいいので、気に入ってるんです」

両足の踵をコツンと合わせてみせる。ミュールのビジューが太陽の光を浴びて、キラキラと輝いた。

「履き心地がいいのか。それなら、この前みたいにはならないな」
「あ、はい。先日はすみませんでした……怪我の手当てまでしてもらって」

肩をすくめて謝ると、係長は慌てたように口を開いた。

「いや、手当てはいいんだが、きみに怪我をされると困るんだ」
「困る? 都筑さんが?」
「べ、べつに……俺が変わってやれたら、とか……馬鹿みたいなことを考えるわけじゃないけど……その、痛々しくて見ていられないから……だな」
「都筑さん……」
「もっ……もういいだろ。少し歩こう」

係長は耳を赤くすると、クルリと背を向けて歩き出す。広くて男らしい背中が、抱きしめたいほどかわいらしく見えた。


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