週末シンデレラ
大きなスクランブル交差点がある通りへ出ると、一歩踏み出すたびにぶつかりそうになるほど、人が溢れていた。
おそらく、近くのファッションビルで夏のバーゲンが行われているのだろう。
対向する人を避(よ)けていると、すれ違う女の人から、チラチラと視線を感じた。
なんだろう、と視線のさきを見ると、涼しい顔で歩いている係長がいた。
……まぁ、見惚れちゃうのもわかるけど。
容姿はいいし、スタイルはモデル並み。それにくわえて、洋服の着こなし方が上手。前に会ったときも思ったけれど、自分に似合うものを知っている。
今日はVネックのTシャツに、七分袖の麻のジャケットを羽織って、紺色のチノパンを合わせている。
正直、会社の係長しか知らなかったときは、堅物なイメージばかりで、ラフな格好をするなんて想像もしなかったし、こんなにオシャレだとは思っていなかった。
「どうしたんだ。なにか言いたいことがあるのか?」
わたしが係長を見上げていると、彼は怪訝な顔でたずねてきた。あまりにも長い時間、見つめすぎていたようだ。