週末シンデレラ
はやく仕事終わらせて、この居心地が悪い空間から出て行こう。
そう思い、書類に向き直った矢先、都筑係長がノートパソコンのふたをパタンと閉じた。
「えっ、か……帰られるんですか?」
さっきまで模範的な姿勢で仕事をしていたのに。驚いたわたしは、つい係長にたずねていた。
「ああ、仕事が終わったから帰るんだ」
わたしに答えながら、眼鏡のブリッジを中指であげる。なにげない仕草はさまになっているけれど、胸が高鳴ることはなく、なぜか逆におびえてしまう。
「そ、そうですか……お疲れ様です」
「加藤さんはまだ残るのか?」
「は、はい……」
「電気代も経費のひとつだ。はやめに帰るように」
ピシャリと言うと、都筑係長は軽い身のこなしで事務室から出ていった。
「でっ……電気代って……なにそれっ」
係長の姿が見えなくなるやいなや、わたしはひとりで叫んでいた。
ひどい。仕事をしている部下にねぎらいの言葉もなく、経費のことを注意して帰るなんて。
「もうっ。はやく仕事終わらせて帰る!」
一刻もはやく帰って、明日に備えよう。
絶対、彼氏つくるんだから。真面目で誠実でも、決して都筑係長みたいな人じゃない彼氏を。