週末シンデレラ


「カオリさんは俺のことがわかるのに、俺にはきみのことがまったくわからないよ」
「え?」
「女性は恋愛ものがいいと思っていたし、一也もそう言っていた。なのに、きみはいかにもグロそうなミステリーを選んでいる。他の女性と違っていて、思考が読めない」
「じょ、女性が恋愛ものを好き……というのは、一般的な前提としてあるかもしれませんけど、ミステリー好きな女性も多いですよ」
「ああ、そうだな。俺の経験値が低いだけだ」

係長は自嘲しているには明るい声で言い、チケットを買いに行った。

映画は予想通りグロく、思わず目を瞑ってしまうシーンもあったけれど、原作とはまた違う展開もあって面白かった。

映画館から出るときに時計を見ると、もうすぐ十八時になろうとしていた。

「少し早いけど、ご飯にしようか。グロテスクなものを見たあとだけど、大丈夫かな?」
「はい、問題ありません。ちょうど、お腹もすいてきたところですし」

わたしが大きくうなずくと、係長は口元を押さえて、おかしそうに笑った。

「やっぱり。きみなら大丈夫だと思ったよ。カオリさんのことが、少しわかってきたかもしれない」

自分を理解されていると思うと、くすぐったくなる。

わたしがうつむいていると、係長が「店は予約してある」と言って、さきを歩き出した。


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