週末シンデレラ


「あ、あの……どうされましたか?」

も、もしかしてマナーが悪かったかな?

普段使い慣れないナイフとフォークだけど、ちゃんと外側から取った。でも、マナーなんてそれしか知らない。

不安になりながらたずねると、係長はクッと笑みを零し、小さく首を振った。

「どうもしない。ただ、カオリさんが楽しそうだと思って、見ていたんだ」
「す、すみません。落ち着きがなくって」
「いや、嬉しいよ。楽しんでもらえなかったら、どうしようかと思っていたから」

係長はそう言うと、慣れた様子でナイフとフォークを使って食べ始めた。

マナーが悪いんじゃなくてよかった。

ホッと胸を撫で下ろしながら、係長との時間を心から楽しんでいる自分に気づく。

もっと緊張感持たなくちゃダメだよね……係長とふたりきりで食事する機会が二度となくなるとしても、最後の最後までバレないように……。

最後を意識して押し寄せる寂しさを、わたしは振り払うように料理を口へ運んだ。


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