週末シンデレラ


お腹いっぱいになってレストランを出ると、あたりは真っ暗になっていた。

「ごちそうさまでした。すみません、わたしがお礼をするはずだったのに……」
「お礼ならいいと何度も言っている。満足してくれたなら、それでいいんだ」
「はい。すごく美味しくて、楽しかったです」
「それなら、よかった」

わたしが笑うと、係長も微笑み返してくれた。

「そろそろ、帰ろうか」
「はい」

ふたりで街頭や飲食店の明かりで溢れる道を、同じ駅を目指して歩く。

少し距離があるけれど、ワインの酔いを醒(さ)ますのに、ちょうどよかった。

ミュールも歩きやすいから、足も痛くないし……。

美味しいご飯を食べ、楽しい時間を過ごし、わたしは鼻歌を歌ってしまいそうな心地いい気分だった。

「また、連絡してもいいかな?」

駅へ到着し、一緒に改札へ向かっていると、ふいに係長に言われた。

「はい、もちろ……あっ」

も……もちろん、じゃない! もう、連絡は取らないんだってば。

つい、いい気分のまま、返事をしてしまったことを悔やむ。

唇を噛みしめてうつむくと、係長が心配そうに覗き込んできた。

「どうした?」
「い、いえ……あ、都筑さんって、メールは苦手なんですか? 返信がちょっと遅いような気がするんですけど」

とっさに話を逸らしてみる。ついでに「遅いなんて注意する、嫌な奴だ」と思ってくれればいい。

……そう思ったけど。


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