週末シンデレラ
「そうなんだ、文面をいちいち考えてしまうし、あまり得意じゃない。それに、今までメールをする相手もいなかったし」
係長が意外にも怒らない人だと、この前知ったはずだった。
肩を落としたいところを堪え、もう少し責めてみようと試(こころ)みる。
「で、でも、一也さんとはメールしますよね? それなのに……」
「一也とは電話が多いから。メールはカオリさんとしかしない」
「わ、わたしとしか……って」
「あ、べつにカオリさんが特別だと言いたいわけじゃないから」
「は、はい」
「ただ、きみと電話をすると、きっとどうしても顔が見たくなると思う。会いたくなったら困るからメールを…………って、いったい俺はなにを……」
係長は耳だけじゃなく、頬まで赤く染めていた。眼鏡のブリッジをグイとあげると、改札を通って足早にホームへ歩き出す。
残されたわたしは、係長が無意識に言った甘い言葉に、クラリと目眩(めまい)がしそうだった。
係長から遅れて改札を通ると、彼はわたしと別れる、ホームへ続く階段のそばで待っていてくれた。
「さっきのことは忘れてほしい。メールは適当に返事をしてくれたらいいし、また会ってくれると嬉しい。それじゃあ、おやすみ」
「はい……おやすみなさい」
ひとつ礼をして、わたしは階段をおりる。ホームに着くまで、背中に係長の視線を感じていた。