週末シンデレラ
「名刺のこと? いいよ、気にしないで。それで、新規の契約は取れたの?」
わたしがたずねると、上川くんは得意気に白い歯を見せた。
「もちろんです。契約が取れたのも加藤さんのおかげですよ。本当に助かりました」
「そう、それならよかった」
「あー……今、俺の感謝の気持ち、軽く流そうとしたでしょ」
「だって、上川くん、いっつも大袈裟だから。あ、営業部の階に着いたよ」
エレベーターが止まり、スーツを着た男の人たちがぞろぞろと降りていく。
このエレベーターには営業部の人が多く乗っていたようだ。
上川くんもおりる……と思いきや、身体を屈めて、わたしの耳元に顔を寄せ
てきた。
「大袈裟じゃありませんよ。今度、お礼にごちそうさせてください」
「ち、ちょ……っ」
引き止める間もなく、上川くんは降りていく。
扉が閉まる間際に見せた笑顔は、爽やかというより小悪魔と言ったほうがふわさしいと思った。