週末シンデレラ
上川くん……いたずらが過ぎるよ……。
耳から熱くなっていく頬を押さえ、周りに誰がいるのかとチラチラ確認する。
こんなところ、誰かに見られて、変な噂を流されたら困る。上川くんは女性社員にも人気だし、誤解されて敵を作るのも嫌だ。
小声だったから聞かれていないと思うし、多くの人が降りていたから、それにまぎれて気づかれなかったとは思うけど……後ろにいた人には見られたかなぁ……。
後ろには誰かいただろうか。願わくは、誰もいませんように。
肩をすくめながら、そっと振り返ってみると。
「つ、都筑係長っ」
「……おはよう」
「おは、おはようございますっ」
最悪だ……。後ろに、係長がいたなんてっ!
焦るわたしとは対照的に、係長は顔色一つ変えない。せめて「上川くんと仲がいいのか?」と聞いてくれれば、なんとでも取り繕えるのに。
これが“カオリ”だったら……どんな反応をしただろう。
もっと、動揺していただろうか。慌てて「どういう関係なんだ?」と聞いてくれただろうか。
エレベーターを降りて、さきを歩く係長の背中を見つめながら、そんなことを思う。
自分自身に嫉妬するなんて、馬鹿らしいとわかっていながらも、胸が苦しくなった。