週末シンデレラ


係長は肩で息をしながら店内を見渡し、注文をたずねる店員に見向きもしない。

わたしに気づかず横を通り過ぎ、店の奥へと入って目を凝らしていた。

“カオリ”を探してるんだ……ホントは、ここにいるんだけどな。

やるせない気持ちが込み上げてきて、“カオリ”を探す係長を見ていられなくなった。

「都筑係長。珍しいですね、こちらでお昼ですか?」

店の奥から戻ってきた係長に声をかける。そこでようやく、彼はわたしのことに気づいたようだった。

「いや、人を探しているんだ。ロングヘアーでフワッとした雰囲気の子は、ここに来なかったか?」
「い、いえ。見ませんでした」

やっぱり、係長は“カオリ”を探してここまで来たんだ。

「そうか。もうひとつ聞きたいんだが、この店は三つ先の駅前にも、新しく出店したんだろうか?」
「さ、さぁ……わかりません」
「わからないか……。ネットで調べても店舗になかったし、あそこからならここが一番近いと思ったんだが……違ったかな」

係長は独り言のように呟き、首をかしげている。

わざわざ調べて、近くにいると思って会いに来てくれたんだ……。

その行動力に茫然(ぼうぜん)としていると、係長はわたしが手を止めていることに気づいた。

「食事中にすまなかったな。気にせず、食べてくれ」

そう言うと、係長は店から出て行く。ガラス越しに見えた係長は、残念そうに肩を落としていた。


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