白狐のアリア
「準備は良いな。では行くぞ。次元を渡るゆえお主の妖力も多大に減るじゃろう。よいな?」
「要らん程にある。いくらでも持っていけ」
「次元の歪みを通る。肉体的にも疲労するじゃろう。向こうに行ったら休眠をとるがよい」
「ふん」
いらぬ世話だとばかりに顔を背け、湖に目を落とした。
「……では、ゆくぞ。妾がよいと言ったら湖に飛び込め」
「湖に? …わかった」
天香久山神が手を広げると、白い光が白火を包んだ。同時に風もないのに湖面が揺れる。
やがて渦を巻くように波立ち始めた湖は、七色の光とともに青空を映し出した。
明るい、まだ昼の空である。
「ゆけ!」
天香久山神が鋭く叫んだ。恐れる様子もなく白火は飛び込んだ。
バシャン――…
水音は1回きり。飛び込んだ白火は、水底に沈むと同時に、姿を消した。